「父さん、就職のことだけど、●●社から内定もらった。」と、次男坊21歳。
「あーっ、もう就職の内定云々なんて年齢になったか。」と、ヤコン殿58歳。
社会人になってもう40年か・・・。
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1984年の3月、就職を1週間後に控えていたヤコン殿18歳が、「ちょっと出かけるから付いてこい。」という父上に連れられ行った先は、知らない街の小さな時計屋さん。
「好きな時計を選んでいいぞ。」と言われ、買ってもらった大人っぽい腕時計。
思えば、父上はとにかく時間に厳しく、公私にかかわらず人と交わした約束の時間を守ることこそ、「社会人として一番大切なマナー」と考えていた。
そんな父上が、一度目覚まし時計が故障して寝坊をしてしまった時のこと。
今から急いで会社に向かえば10分ほどの遅刻で済む時間だったにもかかわらず、会社に「朝から熱が39度もあって寝込んでいる。」なんてウソの電話を母上にさせて・・。
ヤコン殿が「なぜ?」という顔をしていたことに気づいたのだろう。
父上はなんら悪びれることもなく「体調不良で休むなら周囲は心配してくれるけれど、遅刻だと信用を失う。だから休むんだ。」と。
急な欠勤の方がよほど迷惑なもので信用を失うだろうことは子供のヤコン殿にも薄々分かったが、「時間厳守」が信条の父上にとって、遅刻はたとえ1秒でも許せなかったのだろう。
・・・時計屋さんからの帰り道、振り向かずに前を歩く父上の背中越しの声。
「ヤコン、今日買ったのは、お前が『信用ある男』になるためのお守りだから、大切にしろ。」
その少し寂しげな背中と真新しい腕時計を見ながら、「親離れ」の時間が近づいてきたことを感じたヤコン殿だった。
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就職の内定で盛り上がる奥方ヨーコさんと次男坊を横目に、「ここで一発、なにか父親らしく威厳ある一言を伝えなきゃ。」と焦るが、なにも思い浮かばない・・・。
「父さん、俺も父親としては、まだまだだわ。」と苦笑いのヤコン殿が目を向けた仏壇の父上の写真が、少し笑ったような、笑わなかったような・・・。
【+α】
この時父に買ってもらったSEIKOの時計で、確か3万円くらいのもので、当時の私からすればかなり高額のものだったのですが、実は半年後に紛失してしまうんです(涙)
社会人になって社員寮で生活していたわけですが、ある日ベッドの枕の下に置いていた時計がない。
焦ってあちこちを探し回るも見つからず、鍵がかかる個人ロッカーを支給されていたにも関わらず、横着したからと後悔するもすでに遅し。
会社では、身辺の管理の重要性を寮生に身に着けさせるために「盗む人は悪い、でも盗まれる人はもっと悪い」と教えていたこともあって、会社には言い出せず。
なんだか申し訳なくて、父には最後まで言い出せなかったですね(終)